モンスターハウス~ダンジョンの種を食べてしまったらしいけど、美味しかったのでまた食べたい~プロローグ

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 体が熱い。

 まるで体中を構成する組織という組織が組み変わるような感覚に、僕は猛烈なめまいを覚え蹲っていた。自分はどうなってしまうのか、そんな一抹の不安をよそに熱は加速していく。

 思い返せば、この一連の出来事は全てあの【虹色の種】を食べてしまった時からはじまっていたように思う。

 

 ──およそ数時間前。

 

 僕の家は一応は貴族と呼ばれる特権階級なのだけど、10歳の誕生日となった今日、王国のしきたりで女神様の加護を授かるために教会へと赴いていた。女神様の加護というのは、この世界の人間が誰でも受ける事が出来る、一種の洗礼のようなものだ。

 

 まあでも、貴族とはいっても僕の家は下級貴族で、食べ物なんかも貧しいし、平民とそんなに変わらない。

 その日だってお腹がすいてしょうがなく、近場の森に行っては食べられるものがないか探していたくらいだ。洗礼の時間まではまだ少しあるし、つまみ食いを探すくらいなら問題ないだろう。

 

「さてさて、僕のおつまみ君はどこかな~」

 

 人里が近いとはいえ、奥に行けば弱い魔物なんかが出たりする森ではあるが、そこは僕の唯一の特技とも言える忍び足でカバーだ。この忍び足は近所の友達とかくれんぼしているときに鍛えた優れもので、突然閃くように上手く使えるようになっていた。父さん曰く、スキルっていうやつらしい。

 詳しい事はよく分からないけど、教会を誰にも見つからずに抜け出せるくらいだし、凄いのかもしれない。

 

 そして森を歩くことしばらく、結構奥の方まで来てしまったが、ようやくおつまみらしきものを発見する事ができた。

 

「ふむ、木の実か」

 

 そう、木の実だ。

 木の実がなぜか、虹色に輝いて自己主張している。

 

 なんだこいつは、本当に木の実なのか。木の実にしてはやけにデカいし、手のひらくらいある。

 

「まあいいか、なんか香ばしい香りもするし、おいしいに違いない」

 

 パクリッ。

 

「うーん、うまい! そしてなぜか柔らかい」

 

 めっちゃおいしかった。なぜか中から肉汁のようなものが溢れてくるが、木の実の汁だろうか。

 

 ──擬態型ダンジョンコアの吸収を確認。吸収に伴い、属性がリセットされます。

 ──リセットされました。

 

「……ん? 今何か聞こえたような」

 

 しかし、周りを見てもだれも居ない。なんだ、気のせいか、帰ろ。

 帰ったらお待ちかねの洗礼があるし、どんな属性になるのか楽しみだ。

 

 ちなみに、洗礼においては王族から平民、果てはスラム民まで分け隔てなく、規定の金額さえ払えばいつでも洗礼は受けられる。それがなぜ10歳の誕生日に行われるのかはよく知らないけど、家族が言うには洗礼に耐えられるだけの器が出来ているかどうかが問題になるらしい。

 

 洗礼を受ける理由は色々あるらしいけど、何よりもまず重要なのが【魔法適正】を調べる事ができるのが最大のメリットだ。魔法適正は貴族にとって最も重要なステータスであり、武器になる。もし仮に、勇者が使えたとされる伝説の光属性なんかに目覚めたとしたら、それだけで王国を挙げたお祭りが開かれるであろう。

 

 まあ、十中八九ないけど。

 

 そして、それが分かっている両親はもちろん僕にも期待していた。魔法適正は親から遺伝される事が多く、父は雷、母は氷という上位属性を持っていたことから、2重属性をもって生まれている事を期待していたのだろう。金髪の僕は雷属性である確率が高いって言われていたし、教会で洗礼を受ける前は蝶よ花よと育てられ、下級貴族といえど何不自由なく暮らして来た。

 

 しかし、結果は惨敗。

 

 僕は2重属性どころか、普通の人族ではありえない、まさかの属性無し。【無属性】として生まれてきてしまったのだ。

 無属性が何を意味するかと言うと、属性無しからも分かる通り、そのまんま無能を意味する。

 ようするに魔力はあるけれど、魔法が使えないのだ。

 

 これは貴族にとって生き恥のようなもので、もし僕が男爵家とはいえ家に居座ろうものなら、他の上級貴族や王族から滅多打ちにされお家取り潰しになるだろう。……それくらい酷い属性なのだ。

 であるからこそ、10歳の僕に言い渡されたのは男爵家からの勘当、追放であった。

 

 まあ、正直これには異論がない。僕のせいで可愛い妹や、育ててくれた両親の未来を奪うなんてことにはなりたくないからね、妥当な判断だ。むしろ口封じに殺されないだけマシである。

 

 ……だが、問題は勘当先だ。いや、先もなにもないな。貴族とはいってもそこまで裕福ではないウチには、無属性の僕を受け入れる家を探す伝手もコネもなく、受け入れてくれる施設は存在しない。

 つまり現在、絶賛野宿中である。

 まあ明日になったら僕の貴族として生きて来た唯一の特権、読み書き計算でも使ってアルバイトをしよう。

 

「いや、というかそれどころじゃない。あっつ、あっつい!」

 

 冒頭に繋がるが、なんやかんやあって体がめちゃくちゃ熱い。これきっと、あの変な木の実のせいだ、間違いない。なんか変な色してたし、きっと毒木の実だったのだろう。

 

「ああやばい、もう意識が保てない」

 

 意識はすでに飛びかけている。

 グッバイ僕の人生、そしてこんにちは僕の来世。

 

 そして悶える事数分、僕の意識は完全に落とされた。

 

 ──ダンジョンコアの定着を確認。対象のステータスを再構築します。

 ──再構築しました。ユニークスキル【モンスターハウス】獲得。

 


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