ルテリカ王国物語第三章 変化と成長の兆し◆4

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 時刻は昼前といったところ。サバルト台地にはあっさりと抜けることができた。
 暖かな熱を放つ太陽が光を注ぐ、背の低い草木の茂った草原地帯であるサバルト台地は、洞窟とは打って変わって新鮮な空気で満ちていた。
 ここまでだいたい三十分強。あの迷路のような道に迷わなかったのはケビンのおかげだ。彼が呼び出した精霊の導きは、道を一本も間違えなかった。
「さすがだわ……鬼才と呼ばれているだけのことはある。三つも同時に精霊を呼ぶなんて……」
 魔女に対する風当たりが強くなってからは耳にしなくなったが、公爵令嬢のリーゼロッテは百年に一度の鬼才とまで謳われていたのを、カタリナは聞いたことがあった。確か母と一緒に吟遊詩人の弾き語りで聞いたような気がする。
 カタリナは洞窟の中で防御壁の魔法を使ったあのときから、大きく心変わりして治癒師という小さな枠に囚われず、魔女としての技術を高めようと切磋琢磨し始めた。それでケビンが魔法を使うと聞くなり、見よう見まねで魔法の技術を盗み学んでやろうかと意気込んでいたのだが――。
「すごすぎて参考にならないとはまさにこのことね……」
 大きくため息をついてうなだれるカタリナ。
「でも、ああいうの本当はあまりよくないんだよ」
「そうなの?」
「僕はいろいろな属性がまんべんなく扱えるけど、得意なものがないんだ。だから複数の精霊に干渉しないと、大掛かりなことができない。複数の精霊に干渉するのはとてもエネルギーが必要だから、本当なら一つの精霊だけで完結できるようにすべき。今回の場合は水だね」
 熱心にケビンの言葉を聞いていたカタリナが、なるほどなるほど、としばらくうなっていた。
「まさか本当にまっすぐサバルトに出るとはな。こいつは驚いた。いい意味で裏切られたよ」
 フェリクスはケビンに賛辞の言葉を送った。
 彼は医者としても傭兵としても、何度かこのような複雑な洞穴に入りこんだことがある。しかしなかなか抜けることができず、食糧が底をついた経験があるのだ。その分強い覚悟を決めていたので、こうもあっさり踏破されると拍子抜けする。
 少し進み、地平線の向こうに隠れていた草原が視界に入る。するとカタリナが広々とした大地に駆け出していった。
「空気がおいしい!」
 天の端から端まで続く青い空の下、カタリナが大きく深呼吸して叫んだ。背の低い草木の間を駆け抜けた、緑の匂いを含んだ有機的な空気は肺によく馴染む。この台地は周囲を大きな川で囲まれているので、同時に水の香りも混じっていた。
「で、宿にはちと早いが、サバルトにはもう寄っていくのか?」
「そうだね。王国軍の情報も酒場で仕入れておきたい」
 食糧はまだ十分にあるが、次の街までは距離がある。いつ想定外の事態に襲われるかわからないので、備えはしておくべきだ。フェリクスの提案にケビンが頷き、カタリナが高く腕を掲げて復唱する。
「酔っていこー!!
 イントネーションが完全に違っていたが、フェリクスは黙って小さく肩をすくめただけでもうツッコまない。苦笑するケビンに視線を送ってから、元気よく腕を振って歩きだすカタリナのあとに続いた。


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